通訳のコツ:メモの取り方

通訳中に取るメモについて、どこからスタートしたらよいのだろう。ということで私の場合です。

まずはメモ用紙について
大抵は会議のペーパーの資料があるので、それにメモを取るようにしている。もし無い場合は、書けるものなら何でもいいが、できればマスや罫線の無いものが個人的には使いやすいと感じている。私は特に通訳ノートみたいなのは持ち歩いていない。座れる場合はクロッキー帳のような大きくて白い紙が使いやすいが、極端な話チラシの裏でもかまわない。立つ場合は資料があればそれに、クリップつきパインダーみたいなのをつけて下敷きにする。無ければ自前で用意するが、縦にめくれるノートで、早くページをめくれるリング型のがいい。


メモの周辺
通訳と言っても、脳が処理できるキャパには限度がある。そのため、実際の通訳中にいかに脳を使わないでよいパートを増やすかが重要なポイントとなる。

あらかじめよく出てくると予想される専門用語とその訳は、目の届くところに置くか、持っておく。そうするとその語が出た時にはそれに丸をつけるだけで覚えられるし、メモる必要がなくなる。

同様に固有名詞などもリストを作っておけば、丸するだけで済む。ただし一目で見れるようなサイズに収めるべき。

筆記具
書くものだが、私は鉛筆を使っている。ボールペンは予期せぬときにインクが出なくなる。

辞書
いらない。引いている暇は無い。電子辞書でも同様。ただ持っているとちょっとだけ落ち着けるというご利益があるかも。

メモそのもの
すべてをメモするのではなく、ごく一部の重要なポイントだけを書くべきだが、最初はとてもそんな余裕がない。そこでまずは、数字、これだけを書くようにする。

数字が話に出てきたときにはそれを頭で変換するのではなく、心を無にして、数字だけ書き込む。そうすることで、脳を文の意味そのものを訳すのに費やすことができる。そして訳文を言うときに数字はメモからそのまま読み上げるのだ。数字は語学の基本とは言え、訳すのにはそれなりに脳のパワーを使う。おまけに数字は話の中でも重要な情報だ。年代、日付、金額、数の提示、間違えてはならないことが多い。

日本語から英語にする場合は「80万2千」のように、桁が大きい場合は漢字を混ぜると間違いが減る。英語から日本語の場合は「1 332 402」のように千の桁でコンマの代わりにスペースで区切った数字を書く。大抵「one hundred twenty thousand・・・」みたいに続くので、数字が来る、と思ったら無心になり数字に備える。そして聞こえた通りに数字を書き出す。無理にコンマをつけようとすると一瞬の遅れが出るので、広い紙にスペースを空けて書く。

なお、資料の紙に言及されそうな数字がたくさん書いてある場合は、先に小さくカタカナを振っておくとよい。固有名詞なども先に確認し、振り仮名を振っておくこと。

どうしてもわからない言葉で、重要そうな場合は聞こえる通りに書き出す。英単語ならカタカナで書く。

そうすれば必要に応じて、後でメモを頼りに説明するという可能性ができる。その場で調べることはほとんど経験が無い。話の流れが優先される場合が多いからだ。ここでも業務知識の予習が活きてくる。

他にもメモを取ると良い要素はあるが、まずは数字から始めてみるとよい。なぜならメモにこだわりすぎると、その場で聞き取ってその場で訳すという肝心のスキルがおろそかになるからだ。メモはその部分だけ脳を頭の中の翻訳作業から一瞬開放するために使う、というのが私の方法だ。

基本的にはメモ無しでも訳せる、という心構えと自信は、パフォーマンスに大きく影響する。あくまで補助的に使い、上手にメモれなくてもそれ自体は大したことが無いというスタンスが良いと思う。