通訳のコツ:カットイン

通常私たちは、自分が話していることを誰かに通訳してもらうことに慣れていない。どっかのエライさんは別にして、我々通訳が現場で通訳して差し上げている方は、通訳を介して話すときに、どのように話すのかを意識していない。なので通訳の側で、長い文章に切れ目を入れるように誘導してあげることが必要だ。

今日通訳で長い説明のようなものを訳していた。話をされている先生は英語が話せるのだが、通訳を入れて話すため日本語で話を進めていく。すると、話がのってくるとどんどん話を進めていってしまうのだ。当然だが文章は短ければ短いほど訳しやすい。一文が長くなると全体をいっぺんに覚えられないので、かいつまんで要点だけを訳さなければならなくなる。

あまり内容のないことをダラダラ話すタイプであれば適当に(適切に)要約するほうが、話が伝わることもある。ただし本人が話している長さに比べてあまりにも短い英訳だけを話していると、話し手はだんだん不信感を募らせてくるので要注意だ。

そうでなくて正確な訳が求められる場合、まずは話し手の話し方の特徴を早い段階で掴むことが肝要である。その人が「〜で、〜で、〜ですので、〜となりまして、・・・」と読点ばかりで文章を長く長く言うタイプの場合、句点でまだ文章が続いている間でも、途中でカットインする必要がある。

たとえば、「弊社の創業は1975年と36年にもわたる歴史があり、当初ラジオの部品を卸すところから始まった事業ではありますが、時代の変化と要求に対応しつつ、現在では半導体を中心に多くの企業様と取引をさしていただいており、・・・・」のように続いていくパターンはかなり多いのだ。数字や業界用語も入ってくるとこちらの脳みその回転数を余分に使うため、このペースで話し続けられてはとてもたまらない。

その場合、話し手には通訳を介して話すということがわかっていないため、悪気があるのではない。そこで、どういう風に文章を切るべきか、こちらが教えて差し上げる必要がある。

「弊社の創業は1975年と36年にもわたる歴史があり、当初ラジオの部品を卸すところから始まった事業ではありますが、時代の・・」

このあたりで一度カットインしよう。話しては一瞬戸惑うが、そこは落ち着いて堂々と、英語でそこまでを説明する。
『弊社の創業は1975年で、36年にもわたる歴史があります。当初ラジオの部品を卸すところから始まりました』
と英語で述べる。そこまで訳したら話し手に軽くうなずいて、先を促す。

「時代の変化と要求に対応しつつ、現在では半導体を中心に多くの企業様と取引をさしていただいており、」
ここでまたカットイン、読点「、」の先に行く前にそこまでを訳してしまう。

それくらいすると、文章を短く切る必要があることが話し手にもわかってくる。それ以降はしばらくこちらの様子を伺いながら、ちょっとずつ文章を切って話してくれるようになるのだ。これは決して失礼なことではない。むしろ正しいメッセージを伝えるのに必要不可欠なのだ。話し手と打ち合わせる時間が先にあれば、できるだけ短い文をたくさんで話すように例を挙げて説明しておくと、さらにスムーズだ。そのように説明したところで通訳向きの話がすぐにできる人は皆無だが、その仕込をしておくと、こちらがカットインしたときに、「あ、これくらいの長さで一旦休止をおく必要があるんだ」ということが、話し手にもその場で伝わるのだ。

もちろん数分もすればまた文章は長くなる。そこでまたカットインする。その繰り返しになる。

もし重要な年号や統計、数字の類がたくさん列挙されるような場合は、項目ごとに細切れにしよう。以前フルブライト財団の視察団がアメリカから来て、専門学校を訪問した際に通訳をした。その際、日本の専門学校の分野と学生数を一気にまくしたてられたことがある。

「日本の専門学校の学習分野とその学生数としましては、工業分野 111,879人、農業分野、2,645人、医療分野207,822人、・・・」

当然ついていけない。その場合は、訳すときに、
『日本の専門学校の学習分野とその学生数をお知らせします』で一旦切って、「工業分野が何人でしたっけ?」と話し手にもう一度一つずつ分けて言うように促すのが良い。大ホールのようなところで話し手と大きく分かれてしまう場合は無理だが、重要な数字な固有名詞、専門用語の意味などを話し手に確認するのは、恥ずかしいことでも失礼なことでもない。

いずれにしても、通訳を介して話す際には通訳の側がペースを配分してあげることが、良い通訳の秘訣と言えるだろう。